- スポーツライター・小宮良之のブログ -
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2008.02.17 Sun 20:10
氷の上で跳んだりはねたりして、しかも美しさを競うなんて。
昨日、韓国で行われたフィギュアスケート四大陸選手権が閉幕した。
男子は高橋大輔、女子は浅田真央が優勝。日本がフィギュア大国であることを高らかに示した。これ、すごいことです。
トリノ五輪前から取材するようになったこのスポーツ。スター選手が登場したのは大きいですが、人を引きつける力を持っています。僕、サッカーではなかなか泣けなくなりましたが、フィギュアは感極まっちゃいます。表情の表現者たちの挑戦的姿勢に胸を打たれるというか。

そして今回の四大陸では、敗者にも華があったようで。

安藤美姫。彼女はトリノ以来の四回転に挑戦をしました。
結局、失敗したものの、彼女と4を巡るドラマは果てないです・・・。
そこで、スポーツ雑誌「Sports Yeah」のトリノ取材で書いた原稿を。
そこに今大会、そして未来につながる前章があったように僕は思うので。


 2月21日、ショートプログラム。満員のパラベラで、老紳士が背中を丸めて座っていた。お付きの女性が慇懃に話しかけ、紳士は優しい声で答える。「今日はワダエミさんがデザインしてくれた衣装でね。私もまだ見ていないんです」。会場では第2組が滑り終わり、次のグループがウォームアップで会場に姿を現すと、老紳士は落ち着かない様子で手を振る仕草をした。
「気づかないな」と言った視線は、上半身シースルーのコスチュームを身に包んだ女の子に向けられていた。しばらくして、老紳士は関係者に呼びかけられる。「おじいちゃま、ミキちゃんの番なので下でご観戦を!」。老紳士は慌ただしげに階下に降りていった。
 リンクには少し不安げな氷上の少女、安藤美姫が姿を現していた。

 2月19日、メディアセンターで合同記者会見が行われた。安藤は会場に入る瞬間、目も眩むフラッシュに顔を曇らせたが、席に着くと気を取り直したようだった。隣に座るジェンキンスコーチが、喋る前にいつもマイクのスイッチを忘れてしまうのだが、そのたびに安藤がそっと手を伸ばしてスイッチを入れる。そうして彼女は右隣の荒川にへへっと微笑みかける。純真無垢な笑顔だった。
 外国人記者から質問には、少し鼻にかかった甘い声だったがはっきりと答えた。
「オリンピックは出られることだけで素晴らしいことだと思います。大会では誰かに勝つより、自分に勝ちたい。自分の中で緊張している自分に勝ちたいです。滑れるチャンスをもらったので、失敗しても成功しても4回転は飛びたい。それで人の心に残ることができればいいし。私は荒川さんを見て、オリンピックに出たい夢を持つようになったので、今度は子供たちに夢を与えられたらなと」
 幼さは残すが、彼女なりの作法を弁えているようだった。だが終始にこやかで落ち着いていた表情が唐突に崩れる。
-亡くなったお父さんに、どんな誓いを立てましたか?日本のTV局関係者の放った質問だった。
 マイクから場内に流れた声が急にしゃくれ上がる。「えっと・・・プライベートなので、お答えできません」。語尾が聞こえないほど震えていた。瞳は潤み、涙のダムが決壊する。8才の時、大好きだった父をバイク事故で亡くした。その質問は十代の彼女にはタブーとされ、2年前、全日本選手権会見でも泣いていたのだ。
「聞き方がすごく嫌だった。土足で踏み込まれたみたいで」。彼女は当時語っている。
「パパが雲の上からひっぱってくれるから、4回転跳べるの。だからいつも仏壇に行って来ます、って言います。大会のこれまでのメダルも必ず供えて」。たとえ科学的に解析できなくても、それは彼女にとっての真実だ。安藤は家族のぬくもりを慈しむ。例えば心配でそわそわしながら安藤の姿を見つめていた祖父。家族は聖域でなければならない。それが犯された。少女の精神的バランスが狂ったとしても、不思議ではなかった。
 トリノ入りから成功度が高まっていた4回転が、その日から決まらなくなった。

 ショートプログラム。安藤は『蝶々夫人』の曲調に合わせて長い四肢を生かし、ダイナミックに滑る。だがダブルトーループの着地に失敗して結果は8位。シックで大人っぽい衣装は、どこか年相応な彼女の肖像と外れていたが、ミスマッチは今の彼女が置かれている状況を説明するのに皮肉にも似つかわしかった。安藤は世間から強引に少女からの脱皮を周囲に迫られた。「笑顔で滑りたい」と言う高校生の無垢な感情が踏みにじられることもしばしばだった。
 ただ一流のアスリートにはどこの国であれ、無慈悲で容赦のない要求が突きつけられるものだ。
 ロシアのスルツカヤは16才で欧州王者になる。彼女は天才と呼ばれ、その時から勝利は義務になった。母親の看病に明け暮れ、その後は彼女自身が心臓に病を抱え、スケート再開後、薬の副作用による後遺症に悩まされても。彼女は世界の頂点に立つことが当然とされる重圧と笑顔で向き合う。
「スケートのない私はカラッポ。だから何があろうと、スケートが好きだから滑る」。スルツカヤは語るが、それは才能を持つものの行き着く境地なのかもしれない。

 23日のフリープログラム。安藤は誰もが見とれるレイバックスピンで競技をスタート。だが思い切って挑んだクワトロサルコウでは、あえなく転倒した。しかも判定はトリプルサルコウだった。その後も果敢に難度の高いジャンプに挑戦するもののが、ダブルルッツ、トリプルフリップ、トルプルループ、トリプルとーループ・・・立て続けに着地に失敗した。総要素点は35.69。最終的な順位は16位まで下がった。
 ただ、安藤は自分らしく攻めた。
「失敗しても成功しても、自分の滑りを」。彼女は誓っていた言葉を裏切ることはなかった。結果は付いてこなかったが、攻めた上での失敗は彼女が大人の競技者になるために必要な分岐点になるかもしれない。それが邪推に過ぎず、彼女は彼女なりの無垢さと誠実さと脆さを抱きながら滑るだけにしても。一つだけ言えるのは、彼女が魅力あるスケーターの一人であることだ。彼女は18才と若い。昨年末、骨折が判明した右足小指は万全ではなかった。それでも彼女は音を上げず、自分の滑りを貫いた。
 彼女が大人の女としてスケートを楽しめた時。バンクーバーは歴史の証言者になる。
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★ COMMENT

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2008.02.23 15:13 | posted by - | | EDIT |
本屋のてんちょさん、コメントありがとうございました。
こちらこそ、励みになります。
何かを感じてもらい、それをさらに多くの人に伝えてもらえるとは、著者としては感謝の言葉もなく。
今後もよろしくお願いします!
2008.02.24 01:04 | posted by komiya | URL | EDIT |

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