- スポーツライター・小宮良之のブログ -
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2009.08.08 Sat 13:52
イチローと首位打者を争う男
ゲーテ(幻冬舎)2007年3月号の蔵出し。
2006年12月に執筆した原稿。
マウアーさん、なんか懐の深そうな人だった。

 今年10月に開催された『2006日米野球オールスターシリーズ』。彼が放った本塁打は、左翼方向に美しい軌道を描いた。その打撃は芸術性が高く、巧打は「(2度の首位打者に輝く)イチローに比肩する」と評され、第2次世界大戦後、誰もなしえていない4割打者に最も近い存在と噂されている。
 その才能と人気を表すバロメーターとしては、分かりやすい話がある。
 ハイスクール時代、彼はたった一度しか三振を喫していないが、その一つを奪った人物が現在マスコミの人気者になっている。「偉大なる打者から三振を奪ったときの心境は?」。銀行員として働く元投手は、数多くのインタビュー取材を受け、唐突にスポットライトを浴びることになった。真のスターは自分と関わりのあるものすべてを否応なく輝かせる。
 しかし、彼は単なる好打者ではない。
 23才のメジャーリーガーのポジションはキャッチャーである。彼はアメリカンリーグ史上初めて“キャッチャーで首位打者”になる栄光を勝ち取っている。相手打者の研究、自軍投手のメンタルケア、守備選手の集中力維持に奔走しなければならない捕手。同ポジションで、彼ほどの打率を残した選手は前例にない。ミネソタ・ツインズで活躍するジョセフ・パトリック・マウアー。その若者はいかにして快挙を成し遂げられたのか。
 
 マウアーは、身長195cm、体重100kgという巨躯ながら俊足という人並みはずれた身体能力を誇る。ハイスクールではアメリカンフットボールでもクオーターバックとして全米最優秀選手に輝き、バスケットボールでは2年連続でミネソタ州選抜チームに選ばれている。だが高校時代にスポーツエリートだった選手が、プロの壁にぶつかり、挫けるケースは少なくない。
 メジャーの下積みに相当するマイナーリーグ時代、マウアーもプロの世界で厳しい洗礼を受けている。。
「プロと高校はレベルが違うから、最初は大変だった。高校生とマイナーでは肉体面より、戦略面で雲泥の差がある。でも、ぼくは相手打者のデータを頭に入れ、先発投手を完投させ、スランプ気味のピッチャーを上手く誘導させて復活させる、なんてことがホントに嬉しくて。無心に相手バッターのくせを研究し、心理を読んだりしていた。すると、自分の打席でも変化が現れたんだ。相手投手が何を考え、捕手がどんなリードをしようとしているのか。何となく分かってきた。配球が読めるようになると、豪速球がスローに見えるようになった」
 キャッチャーは相手打者の癖と味方投手の特徴を膨大な量のデータで照らし合わせ、配球や球種を選んでいく。一方で、自分のバッティングもしなければならない。それは例えば、会社員が上司のために大量の資料を整理し、下ごしらえをし、同時に自分の仕事もやり遂げなければならない現実に似ている。前者は黒子的役割だが手は抜けないし、後者を少しでも怠れば非難の的になる。
 だがマウアーは、捕手としての激務を自分のバッターボックスで生かしたのである。
 日本で、捕手としての間合いや読みを打者として還元した代表的選手と言えば、現在ヤクルトスワローズで選手兼監督として活躍する古田敦也を置いて他にはいないだろう。捕手として日本野球界最多の8度の3割という金字塔を記録。古田と同じく名捕手で打者としても実績を残した野村克也監督(当時ヤクルト)が、「古田は捕手としての経験を打者として生かしているんや」と語った話は有名である。
 ただ言うは易しで、簡単なことではない。
 捕手としても打者としても成績を残すには、冷静と情熱、どちらも持ち合わせていなければならないのである。
「キャッチャーは司令塔。チームを動かすにはいつも冷静に戦況を見つめなければならない。野球というスポーツは、わずかな加減で流れが変わる繊細な部分が多いんだ。うまくいっているな、と思ったときにやられることが多い。だからその流れを上手くコントロールしないと」
 マウアーの話しぶりは老成した印象を与え、静の人を思わせたが、一方で、彼はこんな逸話を明かしている。
9才の時だった。彼は12才の兄がいるチームで打席に立つことになり、3塁コーチには父が立っていた。第一打席、年上が投げる速球に面を食らい、三振に倒れてしまった。すると、父が怒鳴る声が聞こえた。「なにビビってんだ!しっかり打て!」。少年は内心、忸怩たる思いを抱えていた。
「何でそんなに怒るんだよ。ビビってなんかないよ」。叱られたことがたまらなく恥ずかしく、第二打席、彼は同じ投手から二塁打を放っている。
「怒りにまかせて打った」
 マウアーはそう告白している。
「試合では、感情をコントロールすることの方が何より大事。でも、“勝つ”という強い気持ちを持つことも必要なのです」
 そこにマウアーの流儀が見えた。

 ホテルニューオータニのスイートルーム。マウアーは「キャッチャーミットを構えてボールを受けるところを撮影させて欲しい」という無理なリクエストにも苦笑混じりで応じてくれた。私生活では膝に負担を与えないように曲げるような動作はあえて避けている。だが一流のプロとして、取材を受けることも仕事、と割り切っているのか、配慮ある人柄が伝わってきた。
「MLBの選手になるなんていうのは、ぼくにとっておとぎ話のようなものだった」
 ペットボトルに残っていたミネラルウォーターを一気に飲み干したマウアーは、素朴な笑顔を浮かべ、彼にしか言えないメッセージを送っている。
「今年はプレーオフまで進出したので、ワールドシリーズを勝ち取りたいという気持ちが強くなった。やはりワールドシリーズに勝つことがぼくにとっての目標。ただ、なによりベースボールというスポーツに可能な限り関わっていきたいと言う気持ちの方が強い。こんな素晴らしい職業はないから。ぼくはおじいちゃんにベースボールの情熱を教わった。だから今度は、ぼくがその情熱をいろんな人に伝えていきたい、そう思っているんだ」
 
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